西洋の勝利

AztecCabal - リアリズム vs ネオコンサーヴァティズム
http://d.hatena.ne.jp/Gomadintime/20060709/p1

 John J Mearsheimer "Hans Morgenthau and the Iraq war: realism versus neo-conservatism"が取り上げられていたので、折角だからフランシス・フクヤマの反論を紹介する。「歴史の終わり」について再度説明している。

 簡単に解説したい。

 "West"、即ち現代の西洋的価値観である「自由と民主主義」が史観や世界観をも内包した社会主義的価値観に勝利して以降、「西洋」は冷戦期西側のイデオロギーから唯一の近代性となった。文明が衝突し、断層線(fault line)が世界を区切っていったとしても、イスラム世界の理想もナショナリズムも、狭隘なファンダメンタリズムは物質的精神的に我々を満たすことはない。だから、その限りにおいてはテロリストの脅威は自由市場の繁栄の象徴たる高層建築を倒壊させることはできても、自由主義とその強固な土台を崩すことはできない。イデオロギーの戦争に、自由主義は敗北しない。

 すべての人に対してではないにしろ、ある程度の許容量を持つ枠組みとして多くの人にその幸福を可能性として与える近代は、我々の生きる自由主義以外には存在せず、リベラルな価値観、自由主義と民主主義以外に我々を充足させる近代性はない。現代性は依然としてリベラリズムであって、その意味で我々は「現代」という歴史の終焉にいる。


Francis Fukuyama, "The west has won," The Guardian, October 11, 2001. 「西洋の勝利」 (Reprinted with permission of the Wall Street Journal, 2001.)

Guardian Unlimited | Special reports | Francis Fukuyama on radical Islam and the west
http://www.guardian.co.uk/waronterror/story/0,1361,567333,00.html

Francis Fukuyama, "The west has won" 日本語訳 「まだ歴史は終焉したままだ」 哲学クロニクル220号 (2001/10/19)
http://polylogos.org/chronique/220.html


注釈/補足
*1
*2

*1:America at the crossroadsとフランシス・フクヤマのインタビュー
http://d.hatena.ne.jp/Soreda/20060515
 

*2:『歴史の終焉』の誤解
 「フクヤマは、2006年版の『歴史の終焉』の「あとがき」に「多くの人は“歴史の終焉”とは単に思想と価値の領域だけの事柄ではなく、国益に沿って世界の秩序を形成するために実際にパワーを行使してアメリカが他の国に対してヘゲモニーを確立することを意味すると受け取った」と書いている。さらに「本のテーマは体制の問題ではなく、近代化の問題である」にもかかわらず、多くの読者は趣旨を誤解していると語っている。要するに、近代化のプロセスで体制が変化していくことが理論のポイントであるにもかかわらず、体制間の争いでリベラル民主主義が勝利する、すなわち資本主義が勝利すると理解したのである。だが、フクヤマの意図を超えて、この本は多くの人に影響を与えたのである。」
http://www.redcruise.com/nakaoka/index.php?p=176